その1「一病息災」

九州大学病院病院長 久保千春

“無病息災”は、万人の願いですが、現実にはそうもいきません。そこで、“出来ることなら無病息災でいたいけれど、持病を一つくらい持っていたほうが、かえって健康に注意し、長生きできる”という逆説的な言い回しとして、一病息災という言葉が生まれたものです。つまり、多少病気を持っていたほうが、結果的には、健康に生きることができる。そんな知恵を体験的に、人々が会得したのです。なお、息災は仏教用語で、仏の力によって災難や病魔を退散させるという意味です。

中国では、ずばり“無病短命、一病長寿”というのがあります。また、西欧には、“A creaking gate(or door) hangs long (or longest).<きしむ扉は長持ちする>”というのがあり、意味としては、“一病息災”と同じように解釈できます。こうした言葉の裏には、“不足礼賛”の精神が垣間見られます。その意味では、日本のことわざ、“過ぎたるは及ばざるが如し”や、“足らぬは余るよりよし”とも一脈通じるとも考えられます。

私たちは、病気になって初めて健康の有り難さを痛感します。現代では、多くの人々が生活習慣病に悩んでいます。糖尿病や高血圧、動脈硬化、心筋梗塞、さらにいくつかのがんなど、長年の生活習慣が直接間接に影響して、疾患をつくりだしているのです。

こうした事態に立ち至ったとき、誰でも“健康な体に戻りたい”と思うのが自然の成り行きです。そして、自分の生活をいま一度見直して、食事内容を考え直し、アルコールや喫煙を控え、運動に心がけて、肥満を解消しようと努力します。多くの場合、このようにして、健康への願望に目覚めていくのです。


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